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2008/10/29

EVER AIR@(臨終)~透明度無限大の視界0~

071130_222302

映二はセブンスターを灰皿の中で押しつぶすと、透子が持っていたスケッチブックを透子の手から抜きとり、その一番後ろのページに折りたたまれ挟まっていた紙を取り出し、立ちすくんでいる透子の眼下で開いた。

・・・コレハ、・・・ナニ・・・?


透子は口の端だけで、流れ出してくる収集のつかない感情を必死に何かしらの形にしようとしながら、なんとかその流出をせき止めようとした。熱く燃え始めた皮膚の上では冷えきった針がみるみる逆立つ。

・・・これが、あなたのホントウ・・・?

2つに折りたたまれて、最後のページと裏表紙の間で眠っていた紙に描かれたスケッチに描かれていたのは、


透子の最期であった。

吉崎隆二に絞殺されながら、眼を見開き、今、その絵の中、正に死んでいく透子の最期であろう、鮮明なスケッチ。

「僕に突き落とされる前、彼は気がフれていたのかもしれない。・・・そして、言った・・・。
「殺してやる。あの女!通報なんかしやがって!」・・・と・・・。」

「・・・で、・・・でも・・・!」


自分が何を言おうとしたのかわからなかった。でも、陳腐な打ちっ放しの言葉だけが出て行く。
知りたいほんとうを、求めずにはいられなかった。しかし、着地できない欠落したそんな言葉は宙で弾け、呆気なく消える。


「ほら、虫の知らせってあるじゃないですか・・・。僕は、あの日、あの、母が死んだ時に、そんな気なんて微塵もしなかった。あれ以降たくさんの「死」を予期してきたっていうのに。
・・・ほんとうに、大切な人が死ぬっていうそんな時ですら、僕はちっとも何も感じなかった・・・。」


映二は顔を上げた。

ぶっきらぼうに歪んだ笑みを必死で浮かべながら、その顔面いっぱいに不治の悲哀を、もう永遠に、絶対に自分でも誰かにも何によっても救われる事が無いであろう、逃れる事もできないであろう、怖いくらいに完璧な比率で以て、美しく歪んだ笑みを浮かべていた。
涙に溺れ次第に沈み行く非力な眼は、嘘偽りなく、光を失いつつあるかの様に、今まさに死にゆくが如くに激しく、どこまでも透明に燃えている。

「・・・あなたが彼の手にかかり、危険な目に遭う事がわかった。
僕が彼のそれを描く直前に、その絵が、その情景が、いつものように僕に落ちてきたから。・・・もちろんあなたには言えなかった。

でも、とにかく彼を捕まえてそれを止めようって、なんとか捕まえて警察でもなんでもいいから彼が凶行に及ばないような状況までもってこうって・・・。
あなたの最期を予期してしまった後、すぐそう思った。
でも・・・。

それを描いた直後、気がついたら・・・僕は彼の死を描いていた・・・・。」

「・・・彼のその絵は・・・、いつものような予期じゃなかったのかもしれない。

いつもの、とても恐ろしい、逃げる事が出来ない様な、あの僕以外の何かからの苦しい重圧に描かされた訳じゃなかった。

・・・僕はたぶん・・・僕の意志で描いた。

そして現実にしたんだ。僕の意思で。この彼の絵の事を。


・・・もし、僕がこの絵を描いた直ぐ後で彼の死を予期し、たとえそれを描かなくても、描けなくても、きっとこうしたと思うんです。彼を探し、見つけたら同じ事をしたと思う・・・。

たとえ彼が死んでも、彼を僕が殺しても、それがどんな事かわかっていても・・・
僕はきっとそうする事を選んだ。」


全身の力が抜け、透子は座席に落ちた。
見当たらない感情の境目に涙がつるつると、頬を裂いていく。

「・・・なんで、・・・そんなことまで・・・?」

ねえ、・・・正しかったの?・・・。

いえ、そんなこと・・・。

でも、間違っていたの?

いえ、だとしても・・・。


ねえ、・・・悲しい・・・こわいよ・・・。
・・・でも・・・、そうではあるのだけれど・・・。


終わってしまった他人の「生」、人の「死」の後、不謹慎にも何故か透子のほんとうは、発熱し続けていた。

熱く、熱く・・・。


今、私、生きている。生かされている。

ちゃんと、見つけられて、確かに守られながら・・・。


「・・・ねえ、・・・これで、いいの?・・・よかったの?」


映二はもう、涙をせき止めるでもなく、何を無理に止める事もなく、むしろ何がという判断のつかないままの曖昧な、しかし迷いの無い澄んだ眼をして言った。


「・・・多分、こういうのが虫の知らせってやつなのかなぁ・・・。
僕は・・・そうしなきゃって思った。・・・そうしたいって・・・。失くしたくないって。」


映二の凶行を咎める事も、嘆く事も、否とする事もできない透子は全身で映二の言葉を静かに噛みしめ、反芻していた。

決して、というか取り返しのつかない、どうすることもできない、決定的な絶望。

「死」の「終」を、「生」を「継続」する身である自らの意思で以て、
そんな存在にとっては最高で最恐であろうタブーを犯した映二、彼がそうまでしてでも守り、生かされている、存在している自分自身に、恐ろしいほどの悲しみと熱に縁取られたはっきりとした愛おしさを感じてしまっていた。


永遠に離れられない。
離れたくない、ここに居たい。
という、恐ろしくも透明な確信が湧くのだ。


覚悟・・・?、をした。

私達は、
「生」を「継続」する私達では、どうにもできないはずのタブーを犯してまで凶行に及んだ映二の意志と、その先で、今、生きている私。


そうまでして私を、私だけを守ろうとしたきみ。
そして、今、きみは生きている。

今、生きている私と一緒に。

・・・ごめん、私は、そんな最高に最低に欠けてしまったきみが、最高で最低になるまでに私が欠けさせてしまったきみが、


最高で最低な汚らしさではあるのかもしれないけれど、

好き。

そうしてまで、とんでもない事までやらかしちゃった事を背負って、そのとんでもない比重にまみれ、潰れ、汚れまくっていても、
こうしてまだ生きていて、
今も私の目の前で、ちゃんと・・・、


ちゃんと在るという事が・・・ごめんだけど・・・。
嬉しい。


・・・カミサマなら・・・制裁を下すかな。
裁判官なら、警察官なら、いや、道徳とか、要領のいい美しき術を持ち合わせ、例え心で泣いてても顔で笑っていられる利口なもの達ならば、


・・・たぶんあなたを綺麗に排除できるだろう。
もしかしたら、あなたはその方がマシっていうのかもしれない。
伸びっぱなしのだらしない前髪で隠れているから、ぶっちゃけ真意は察知できない。

でも、どっちにしても・・・私は駄目みたいだ。
ほんとに駄目みたいだ。

だからごめん。

あなたを好きだと、嬉しいと、思う。

こんな今になってしまってから初めて、そう思う。
取り返しのつかない崖っぷちに来てからやっと高鳴る熱。

でも、これが私のほんとうだ。私はそれをもう、閉ざしたくないんだ。


そう思ってしまった。見つけてしまった。

・・・ごめん、私は、駄目みたい・・・。


・・・でも、いい。
勝手かもしれないけど、
もういいんだ。


「どう?」でもいい。

「どう?」がこの熱を綺麗に処理してくれた試しなんかない。
継続するしかない私と共に在り、救済してくれた試しなんかない。


私は「どう?」でもない、この熱を信じていたい。

それが「どう?」であろうがなかろうが。
もういいんだ。


だって、とてもいいんだもの。
とてもすきだと思うんだもの。

・・ねえ、・・・ここから先、私達は、在り続けられるのかな・・・・・?
そのための力を見つけられる・・・?


映二は嘔吐する様に苦しそうに続けた。
透子は夏の終わりの花火の末尾までを惜しむ様に、どんどんという脈のひとつひとつにその言葉達を飲み込ませていく。


「誰でもなくて、誰よりも・・・たとえ誰が終わっても、消えても・・・。

あなたが生きていてくれたらって・・・。

あなたが居てくれるんなら、僕はどうにでも出来るって。

・・・勝手に、ほんとうに勝手に、そう思った。」

「・・・・・駄目で、ごめんなさい・・・・・。」
透子は擦れて笑って見せた。泣いていたのかもしれない。


しばらくの沈黙の後、映二はもっと擦れた笑みを浮かべて言った。

「居てくれたら、駄目でも、どうでもいいんです。少なくとも、僕にとっては。」


失うことの恐怖は全部捨てられるんだ
ここにきみがいるのなら。
亡くす悲しみすら背負っていけるんだ
ここにきみがいるのなら。


いたい、こわい、なみだ、けもの、きょうふ、こどく
忌むべきものは続くだろう、僕らは成す術もなくいくだろう。
それで、どうして、なぜ、どこ、もういやよ、なんも
否と不条理は続くだろう、僕らがおとす真っ暗な影のなかで。


でも僕らは止まれないままだろう。
そう僕らはたぶん選べないんだろう。


その理由は指をすり抜ける砂?
その根源は波にのまれる城?

くりかえしながらいくだろう、忌むべき否と僕らのほんとうとを。


でも僕は止めたくないんだよ
でも僕はいま閉じたくないと思うんだ


その理由は相変わらずわからない
でも、ただ今、ここにいるのなら
そう、ただ君がここにいるだけなのに


いたい、それで、こわい、なぜ、なみだ、どこ、けもの、きょうふ、もういやよ、こどくの何も無し。
それでも生ける気がするんだよ
無数のそれらにたったひとつきりの
ここにいるのなら
無数の先の中、たったひとつきりの
きみがいるのなら。

・・・終わらせたくない。この手で守りたい。汚れたままでいい

守り,、行き続けたい。


私達は・・・・・。

僕達は・・・・・。


正しくないのかもしれない。
罪でしかないのかもしれない。
僕らのほんとうが見るものは、悲しみと痛みと熱の虚しい繰り返しだけなのかもしれない。

でも、
生きるも、死ぬも、殺されるも、愛されるも、曖昧ならば痛いだろう。
ずっと是非など知れぬまま、ただ行くだけ、半端なら悲しいだけさ。

果ても始まりも知らないまま、曖昧で半端で、非力すぎるこのほんとうは


続くだけの「生」の中鳴る、
ただ、「いけ」という怒号に、
走り続ける事しか選べない。

まるで飢えた狼のように迫り来る、今という現実を背にしながら。

Posted by 芙美子 on 10月 29, 2008 |

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コメント

初めまして(^-^)

お仕事がんばってくださいねぇ~(o^-')b

投稿: きこ | 2008/11/11 13:54:46

初めまして(^-^)v
応援してま~す。

頑張ってくださぁい(^o^)/♪

投稿: さやか | 2008/11/10 22:38:16

蓉姉、風邪のほうはどうかな?
すっかり出遅れたけど面白い作品だったね!
感想は少し長くなるので、もしよければこちらで。
例によって葦野さんの鋭い記事のほうが
はるかに参考になると思うけど(^_^;)
これからも仕事の合間を見て
無理せずのんびり書いてくれたらと思うよ。

投稿: kk | 2008/11/09 20:15:49

本日スゥイングガールズがテレビでやってますね。

投稿: 好きだ好きだすき焼きだ | 2008/11/08 21:31:35

終わってしまいましたね。
3度出てくる詩の意味を繰り返しかみ締めながら、
3部構成のこの小説の重さをじっくりと味わい返しています。

人、という点で言うと映二のイメージがどうしても
Joy Divisionのイアン・カーティスなんです。
それというのも、どうもこの物語を読むと流れてくる音楽が
ブリティッシュビートに彩られていて、ザ・フーはもとより、
キンクス、スモール・フェイセズ、ゼム、トラフィック、クリーム、
T・レックス、バッド・フィンガーにブルース・ブレイカーズ
果てはソフトマシーンに至るまでがBGMとして視覚言語野に響きます。
人名で言えば首括りのイアン・カーチスとピート・ハム
衝突死のマーク・ボランに溺死のキース・ムーン、
薬死のブライアン・ジョーンズ、生き死人のシド・バレット。
こうした人たちの肖像が走馬灯を巡る影絵の人物のように現れては消えていくのです。

透子は、さてと、誰をイメージしたらよいのでしょうね。

そのあたりが、未だ見ぬ次回作に引き継がれているのでしょうか?

きっと、なにかが出てくるんですよ、つくり人の「創作ポケット」から。

投稿: 葦野 | 2008/11/05 22:52:54

続きが楽しみです!!

投稿: エリザベス女王杯 予想 | 2008/11/05 11:46:16

物語は完結。。
なんか深かった
でもなんかそんな恋愛もいいかも
これみてたらなんか友達が歌ってた『アクエリオン?』ってやつのテーマ歌が流れてきたんだけど(笑

だから何?って言われても返答は持ち合わせてございません

投稿: 雪〇 | 2008/11/02 3:14:28

すいません、ベスのノベルも空気も読まずに書き込みます(^_^;

本日、11時56分発の山手線に
乗車したお嬢さんはベスですね?
黒のコートに赤いバッグと紙袋。

乗車前にアレ?と思って振り返って確認した時
ベスが一瞬「あ、おっさん見てる」って感じでキョドった気がしました(笑)。

約5分間同じ車両にいて、面白かったです。

週刊プレイボーイのコラムの感想など
言いたいこともあったのですが、
2度目の遭遇というのに声を掛けられないヘタレでした(笑)。

投稿: rag | 2008/10/30 18:33:56

じっくり読ませていただきました~。

投稿: みさみさ | 2008/10/30 15:29:17

衝撃の展開!

まさか映二さんのスケッチブックは…デ○ノート?

早く続いてくれよぉぉぉー!

投稿: すごいぞ | 2008/10/30 15:21:16

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